編集ボランティア企画 留学生との座談会
2025年03月01日
現在静岡県内では3915名(2023年5月)の留学生が日本語学校や大学などで学んでいます。中でも日本語を学ぶ留学生は年々10%を超える勢いで増加し2742名となっています。全国と比べると、ネパール、ミャンマー、スリランカ、インドネシアの留学生の割合が群を抜いて高く静岡県の特徴となっています。今回は、静岡市AFC国際学院で学ぶネパール、ミャンマー、バングラデシュ出身の留学生4名を招いて座談会を開催し、なぜ日本語を学ぶのか、なぜ静岡を選んだのか、これから何をしたいのか等、編集委員の関心事をぶつけてみました。
参加してくれた留学生は、ネパールのプレムさん、同ナヌさん、バングラデシュのアジマインさん、ミャンマーのキンさんです。
日本・静岡を選んだ理由は?
工科系高校を卒業したプレムさんは「世界一流の技術を学んで電気関係の仕事をしたい」、普通高校を卒業したナヌさんは「日本の文化を学び将来ホテルや会社の仕事に活かしたい」、普通高校を卒業したアジマインさんは「日本のアニメが大好きで、アニメが生まれた日本の生活を見てみたい」、コロナの影響を受けて大学を中退したキンさんは「IT技術が進んだ日本に留学したかった」とそれぞれ明快に答えてくれました。ただし、「静岡」のことは、アジマインさんだけが「富士山のあるところ」だと知っていて、あとの人は日本のどこへ行くのか全くわからなかったそうです。
海外に留学すること、日本に留学することは普通なのか?
4人はかなり優秀な人たちなので一般的ではないかもしれないのですが、高校生にとって海外留学を進路先に選ぶことは普通なのだそうです。授業がすべて英語で行われるネパール私立学校などの例のように英語の習得が必須になっていること、地元に有望な進学先・就職先がないことなどが背景になっているようですが、主流のアメリカ、オーストラリア、カナダへの留学に加えて、最近日本への留学を選ぶ学生が多くなってきているそうです。
また、最近の円安の影響でしょうか、日本の留学費用はアメリカの半分以下だそうです。ご家族の支援もあるのでしょうが、プレムさんは数カ月のアルバイトで日本に行くための資金が用意できたといっていました。
それでも日本語は大変
学校での英語授業や民営の英語教室などが充実し、海外留学に対する学校や家庭・社会の理解や関心が高いため、高校生は基礎能力として英語能力が備わり、アメリカ、カナダ、オーストラリアへの留学を普通に目指すのだそうですが、「日本語は違う」と4人とも口をそろえます。高校での日本語授業が無いので、4人はいずれも現地の民営日本語学校で3~6カ月日本語を学び、初期日本語能力を得たうえで来日したそうです。英語圏のアメリカやカナダでは、留学当初から専門分野を学び、生活の不便もなく、アルバイトもできるが、日本留学は日本語を1~2年勉強しなくては、専門分野を学ぶ事はもとより、一人で行動することも不自由で、事前の日本語の修得や支援がないと生活ができないのだそうです。4人の留学生のうち、1人は2年、3人は1年半AFC国際学院で日本語を学んでいます。短い学歴ですが、座談会で積極的に発言し意見を交わすほどの日本語能力を身につけています。その能力を褒めると、「まだまだだ」「これから専門分野を学ぶ。専門用語も覚え使えるようにならなければならない」と気を引き締めていました。
静岡の生活はどうですか?
静岡に来た当初は何もわからなくて大変でした。特に、「ひらがなができる程度だった」ので、「バスにも乗れず、どこにも行けなくて、生活に苦労した」そうです。
4人とも夜にコンビニ等のアルバイトをしていて、明け方に仕事が終わり、午前中授業を受けたり、午前中睡眠をとり午後授業に行くなど、日本語授業に合わせた生活を送っています。
「休みの日はどうしているの、友達と過ごしたりするの?」と聞いてみると、「友達もみんな働いているし、それぞれのシフトが異なるので、なかなか会えない」そうで、仕事のない日はだいたい家でゆっくりしていて、故郷の調味料をたっぷりと使った料理を自炊して楽しんだりしているそうです。
「静岡は暖かくて、住みやすいところですが」と一人が切り出します。「仕事で会う人も、日本人の知人も、仕事や要件が終わるとすぐに帰り支度をはじめ、家に帰るとなかなか出てこない。周りを避け自分の生活や時間を優先している感じがし、寂しく感じる時があります」これに全員が同調します。「故郷では、家の周りでは近所の人と、通りでは知人と、ときには初めて会った人とも、いろんなことを良く話す」、「トラブルや事故などがあれば、居合わせた人が集まり助けてくれる」、「静岡ではそんなことはないんだよね」とつぶやく彼らに胸を突かれる思いがしました。
母国の新年
人の交わりが薄く寂しい感じがする静岡の話に触れた反動でしょうか、母国の話に花が咲き、4月に共通して迎える新年のお祭りの話で盛り上がります。
バングラデシュでは太陽暦2025年4月14日に、ベンガル暦1432年の新年を迎え、この日には町中が飾り付けられ、お祭りが催されるそうです。ネパールもバングラデシュと同じ4月14日に新年を迎えますが、今年はヴィクラム暦2082年となるそうです。ミャンマー暦では、現在は1386年ということです。4月17日に元旦を迎えますが、新年を迎える前にミャンマー最大のお祭り「ダジャン(水かけ祭り)」があります。旧年の汚れを水で流してきれいな体で新年を迎えるために水をかけあうそうです。
「新年のお祭りには帰るのか?」と聞くと、「今年の4月は帰れない。やることがある」としっかりとした答えが返ってきました。
4人は今年の春AFC学院を卒業し、静岡を離れ短期大学、専門学校など、それぞれの夢につながる道に進みます。その選択は明確で、自分の将来とこれからの道筋を何度も検討した結果なのだと肯けます。自分の将来につながる道筋を地平のかなたまで広げて描く能力は、個人の能力によるものなのか、母国の社会や文化に育まれたものなのか、興味が尽きないところです。
最後に「これから日本を目指す後輩にアドバイスはありますか?」と訊ねると、「できるだけ早く日本語の勉強を始めてほしい」「日本語は難しいけれど、平仮名だけでなく、漢字もあきらめずチャレンジしてほしい」と、ここでも全員口をそろえて後輩達にエールをおくります。
家の近くのコンビニで働き始めた外国人従業員の方の、「いらっしゃいませ」「袋は必要ですか」「お支払いはどうしますか」等の業務用語が滑らかになってきました。レジカウンター、品揃え、掃除など黙々とこなす彼、彼女の後ろ姿に、インタビューに応じてくれた留学生の姿が重なると、「がんばれ!」とエールを送らずにいられません。
記:編集ボランティア 杉山滋敏、川島康子、髙木睦子