医療従事者を対象とした静岡県における医療通訳セミナ-

2022年05月20日

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①外国人患者の特徴や診療時の注意点、医療通訳の必要性について

講師:山口ハート国際クリニック 院長 山口 貴司 氏

専属通訳者を配置し、浜松市で外国人診療を続ける山口先生から、お話を伺いました。外国人は定住者が大半を占め、無保険の人は以前よりは減っていることや、外国人が診療しやすいよう週末診療を行っているが、最近は平日に受診される患者も増えてきていること等の最近の傾向について紹介いただきました。また、肥満の方が多く生活習慣病が増えていることや、派遣会社を介した間接雇用のため、定期昇給がなく日勤・夜勤の交代勤務が多い等厳しい環境が要因となり、不眠、多発性筋肉痛などを訴える人も多い、今後は、高齢化が進み合併症を起こすなど問題になっていくかもしれない等、外国人患者の病状等について説明いただきました。
そのような中、診療では、言葉がわからなければ良い医療が提供できないことから、医療通訳が必要であること、さらには、通訳者には、熟練するまでには経験が必要なので、日頃から、日本語能力を高める努力をしてほしいと期待を寄せられました。

②地域医療における医療通訳の現状、医療機関における電話医療通訳システム活用について

講師:浜松医科大学地域家庭医療学講座 総合診療教育研究センター 特任教授 井上 真智子 氏

外国人の方の受診には、3つの壁、言葉、制度、文化・心の壁がありますが、言葉が通じない外国人患者の診療は困難があります。実際には、4割が片言で何とかしている、3割が家族・友人・知人を頼る等との報告があり、その対応では、正確性や中立性、プライバシーが守られない等、問題をはらんでいる面があると説明いただきました。
厚労省が、医療機関向けや地方自治体のための外国人患者受入環境整備に関するマニュアルを発行していることや、外国人患者医療コーディネート機能を持つ人員配置モデルを紹介していること、また、医療におけるやさしい日本語も研究が進み参考になること等、アドバイスをいただきました。

③森町家庭医療クリニックの取組み

森町家庭医療クリニック 医師 福地 芳浩 氏

診療科の垣根なく、様々な健康問題に対応している診療所。外国人患者の対応経験言語は、一番多いのがポルトガル語。外国人診療では、2016年度以降1か月あたり10~15名、年間120人から150人程度の診療経験を持つ。2020年の7月から静岡県の電話医療通訳サービスを利用し、タブレット通訳を介して、患者さんの表情やアイコンタクトを取りながら、診療を進めていると説明いただきました。
サービスは、導入前に使っていた機械翻訳とは比べものにならないほど使いやすく、表情がわかると時間短縮につながることなどメリットを感じている一方で、通常では5分で終わる診療が、通訳を入れるとどうしても10分、15分とかかってしまうため、診療報酬がつかない外国人診療の悩ましい点と現状を打ち明けてくださいました。

福地先生の講義の後に、井上先生から、文化・習慣の違いによる配慮がいろいろ必要であることの事例をいくつか紹介いただきました。
イスラム教では入院中にお祈りの時間が必要なこと、ラマダン中は服薬でなく注射を希望する人がいること、心を開いて友人を迎えるように接してくれる医療従事者が良い医師であると思う、風邪程度でも大きな病院を選ぶ、自己決定力が高く、治療に関しても人任せにしない、顔の表情が豊か等、外国人患者の様々な特徴や傾向について、教えていただきました。
医療者も通訳者も異文化対応能力を身に付ける必要性や、文化・風習・世界観を理解し、尊重することが大切であると締めくくられました。

④行政における電話医療通訳サービスの紹介

講師:静岡県健康福祉部医療局医療政策課 課長 高須 徹也 氏

静岡県電話医療通訳サービスについて、県事業の背景、電話医療通訳サービス事業、今後の課題と方針についてお話がありました。
在留外国人等の増加に伴い、厚労省から、平成31年3月に外国人患者受入拠点医療機関の拠点の選出、周知の依頼があったこと、現在磐田市立総合病院をはじめ、32医療機関が拠点となっているが、まだまだ限定的であること、マイナーな言語の対応が難しいこと等から、静岡県の外国人診療において、安心して受診、診療ができる環境の整備の必要性を感じ、令和2年6月から県事業として、医療通訳サービスを開始したと報告がありました。
手順としては、利用を希望する病院から申請を受け、県の承認や利用登録などを行った後に、17言語、24時間の対応ができるようになるとのことです。
対象の医療機関は、外国人患者受入拠点医療機関32医療機関と、救命救急センター設置病院の11医療機関。実際の利用状況ですが、ポルトガル語、ベトナム語が多く、利用実績があるのは6医療機関と少し偏りが見られるとのことでした。
病院側の負担がないこと、24時間対応で、マイナー言語対応ができるなどから、評価が高い一方、依然、日本語のできる同行者や片言の日本語で対応している病院もあるようです。
サービスの認知度が低いと感じているので、今後は、適切な医療の提供やトラブル防止の観点からも利用して欲しいとのご意見を伺いました。
母語で受診可能な医療機関の情報がほしい、医療機関での通訳サービスを利用したいとの意見もあることを踏まえ、このサービスを多くの方に知っていただき、登録医療機関の利用を促すとともに、新たな登録を増やしていきたいと締めくくられました。

最後に、当協会からも、医療通訳派遣事業について、紹介しました。
当協会では、令和4年度に、病院にも協力いただき、オンラインで遠隔通訳の実証実験を進める予定です。
これからも、外国人医療支援の体制づくりに努めていきたいと思います。