令和3年度 医療通訳専門(フォローアップ)講座

2021年10月05日

 

令和3年度医療通訳専門(フォローアップ)講座を9月4日(土)に開催しました。3人の専門講師を迎え、医療通訳者41名(ポルトガル語11名、中国語9名、ベトナム語8名、タガログ語6名、スペイン語6名、その他1名)がオンラインで参加しました。
講座の内容を紹介します。

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午前の部(10時~12時)
医療通訳に必要な知識 ~新型コロナ感染症について~
講師:港町診療所 所長 沢田 貴志 氏

新型コロナウイルス感染症について、日本の状況、症状や経過、致死率や重症化のリスク、後遺症、流行の防止策、潜伏期間と感染力、診断方法など、医学的な基礎知識について学びました。
アジアでは、結核に対する経験や地理的な要因などもある中で、欧米より患者数が少なかったが、現在ではデルタ株の影響で、日本は重症者の増加で病院に入院も困難な状況となっていることや、新型コロナウイルス感染が疑われた際の受診のための注意点等について紹介いただきました。
発熱や咳などの症状が出た際には、病院へ直接行かず、予約をして検査や受診を依頼すること、症状は1週間から2週間など時間が経ってから重症化するという特徴があることや、PCR、抗原、抗体検査の種類や費用、陽性になった時の流れについて等、具体的に説明いただいた。PCR検査の費用については、病状があってコロナ感染の確認をするための検査は行政検査の対象で公費負担となり、無保険者でも無料であることが説明された。沢田先生から、外国人に正確な情報を伝える担い手としても通訳者に期待しているとお話いただきました。
神奈川県で診療をしている沢田先生も、8月末頃は保健所の業務がパンクしていたため、先生が診察後の患者さんと連絡を取り続けて、場合によってはパルスオキシメーターを届けたりするなど、診療所でも緊急事態により大変な対応をされていることについてもお話を伺いました。
また、コロナウイルスの構造と新型コロナウイルスのワクチンの特徴と有効性、副反応などについても具体的に説明いただき、新型コロナに関して、知っておくべき医療知識等について、本当にわかりやすくお話いただき、大変参考になりました。

午後の部①(13時~14時30分)
外国人診療における注意点
講師:山口ハート国際クリニック 院長 山口 貴司 氏

浜松市において、2010年から、通訳配置及び週末にも受診できるクリニックを開業し、外国人の診療経験が豊富な山口先生より、外国人患者の特徴や医師から求める医療通訳者への期待についてお話を伺いました。
浜松市では、ブラジルだけでなく、フィリピンやベトナム、ネパール出身の外国人などが増え多国籍化が進む状況や、主に製造業や、スーパー、飲食店などに働いている患者、生活保護の患者も多いなど、背景について説明がありました。
外国人を診察する時の注意点として、まず、患者の母国語、通訳が必要か、日本語が話せるかを確認し、通訳を介しての診療となるとそれなりの覚悟をして望まれるとのことです。
診察前の問診はとても重要です。健康保険の加入の有無や働き方、訴えが多い患者さんからの主訴、本国から持ってきている薬等について、また、診察では、どうしたのか、いつから、どんなふうに、どこが、どのくらいといようにそれぞれ大事な兆候を外国人患者さんから詳しく聞くことにより病気が推定されます。例えば、“痛い”といっても、いつから、どんな風な痛み(刺されるような、チクチク、キリキリ、電気がはしる、など)なのか、持続時間や程度、痛みの部位などを詳しく聞くことによって適切な診断ができます。
一番大事なことは、診察、検査、薬の処方など全てにおいて、医師は、根拠に基づいた医療を心がけているということをきちんと伝えてほしいということです。
最後に、通訳者として心がけてほしいことの説明がありました。患者さんの多くの訴えから主訴をつかまえること、通訳はあくまでも脇役として、患者と医療従事者の間に入り、きちんと患者さんの声を伝えてほしい、医療用語を少しずつ増やすこと、心の病気はむずかしいが、やさしく訴えを聞きまとめて通訳するとわかりやすい、無保険の場合には、理由などを聞いてもらえれば、検査や薬の処方など配慮すること、薬局でも処方箋や服薬指導においても、通訳が必要であるとのことでした。
皆さんの協力により、先生が目指されている外国人が安心して不安なく健康に生活することにつながると締めくくられました。

午後の部②(14:30~16:00)
医療通訳の倫理・心得
講師:静岡県立大学看護学部 濱井 妙子 氏

コロナ禍でも医療通訳は必要となっているように、医療通訳はますますニーズが高まっています。医療通訳の倫理と心得は重要なので、繰り返して確認してほしいと始まりました。
言葉ができるだけではなく、文化差の認識の能力を高め、患者と医療スタッフと中立を保ち、医療知識及び技術を向上に努める等、医療通訳の守らなければいけないルールをきちんと理解することにより、医療通訳を行うことができます。医療通訳の専門講座を受けた医療通訳者が関わることにより、医療事故につながる通訳ミスが少ないことが研究でも実証されています。
省略、言い足し、言い換え、自分の考えを加えてはいけないという医療通訳の原則がある一方で、実際の医療の場ではその原則を守ることが難しい場面がある。そこで、グループにわかれて、みんなで考えました。
グループの話し合いでは、通訳前の下調べをすること、メモをきちんと取ること、わからないことがあれば、先生に聞き返したり、イラストで描いてもらうようにお願いすること等正確に通訳をすることを心がけている一方で、先生の話が長くなってしまい、途中で入るのがむずかしいことがある、待合室ではうまく言えている患者さんが、先生の前では緊張してしまう、性別が違うとやりにくいなど、正確に通訳することのむずかしさなどの意見がありました。また、患者さんが先生の悪口を言ったり、反対に先生が差別的な発言をする時など、通訳しなくても良いと思う場面もあり、皆さんの日頃の工夫や苦労について共有することができました。
日本独特な表現、擬音語、擬態語の言い換え、病院のシステムや検査に不慣れな患者さんへの補足説明など改善するための介入を行いながら、文化的、宗教的なこと等を共有して患者さんと医療者へ正確に通訳することが大切であること、その時に自分の感情や意見を加えてはいけないことも重要です。日本語独特の表現や難しい用語は、一旦やさしい日本語で理解すると、通訳するときに役立つと思います。医師、患者の理解の確認、また、自分の理解の確認など、意図が伝わり、患者も理解して納得することが大切です。文字通りの通訳の正確性ではなく、双方が理解できるように説明し、発言の意図が伝わることが医療通訳の役割です。
正確に通訳するために、逐次通訳では20秒くらいでまとめること、通訳にとっても患者にとっても理解しやすい、等技術的なことにもアドバイスがありました。最後に、診断の遅れや患者の不安、患者の意思決定の選択肢がなくなることにつながることがあるなど、通訳ミスによる臨床的な影響について、説明がありました。
患者さんと医療従事者が信頼関係を結べるよう今後も向上していっていただけるよう、また、コロナ禍に負けずにみなさんの協力のもと、外国人の方々も無事に乗り越えていっていただきたいとお話いただきました。