静岡県・日本語ボランティアセミナー2016

2016年02月23日

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1月11日(月・祝)静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」(静岡市)で開催されました。午前は基調講演、午後はテーマ別に3つの分科会が開かれました。県内外から約200名が参加し、地域日本語教育について考え、日本語ボランティア活動に役立つ手法を学ぶ機会となりました。また、日本語教室を開いている19団体が自分たちの活動をパネル展示し、その内12団体の代表者が自分たちの教室活動の特徴や独自教材、団体として取り組んでいる内容などについて発表し、来場者同士が情報交換する機会となりました。

基調講演「日本の多文化共生社会構築の鍵を握る地域日本語教育」

講師:東京外国語大学 教授 伊東祐郎氏

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伊東先生の講演では、地域の日本語教室では、ボランティアが外国人に日本語を「教え」外国人が「学ぶ」という言語としての日本語、知識を増進させることを目的とした活動が中心になりがちであるが、時代の変容とともに日本語教室の役割が一層多様化してきているというお話がありました。そして、近年では、外国人が日本で働き、子どもを育て、安心して暮らしていくために、あるいは社会生活の中で自分の考えや気持ちを述べ、人間関係を構築していくためになど、地域の日本語教室には外国人が「生きる」ために必要とするコミュニケーション力を目的とした活動が求められている、という説明がありました。そして、そのために必要な環境や理念についての解説があり、地域の日本語教室に求められている役割や意義について事例を含めてお話しがありました。また、講演の中では、ことばが通じない海外での生活を想定し、隣に座っている人と助詞を抜いて会話をしてもコミュニケーションは成立することをアクティビティーで体感しました。ことばの正確さよりもお互いが歩み寄ること、ことばを身につける過程も「参加型学習」を取り入れて経験や考え、思いを共有することで得る学びの有効性などについて気づくことができました。

伊東先生の講演は、ことばが果たす機能や意味を再認識させられるとともに、現在日本語ボランティアとして活動している人にとっては、自分の活動が単なる日本語のルールを教えるだけの活動になっていないか、学習者の自己表現や自己実現につながる活動になっているか、ということを振り返る機会となりました。多文化共生社会を見据えた日本語教室とは、日本語ボランティアと学習者が対話をする中で共に経験を重ね、共に課題を検討・共有し、共に解決・共感していく活動であるということを改めて学ぶ内容でした。

分科会A「地域日本語教室の『連携・協力』あれこれ」

講師:文化庁文化部国語課 日本語教育専門職 山下隆史氏

事例発表者:のびっこクラブみしま 石井千恵子氏、磐田国際交流協会 鈴木ゆみ氏、フィリピノナガイサ 半場和美氏

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始めに、山下氏から日本に暮らす外国人の多様性をふまえ、外国人にとっての日本語教室は日本社会との接点の役割を果たしているというお話しがありました。その上で地域の日本語教室は多様な機関や団体と「連携・協力」を行うことで、工夫に富んだ日本語学習の機会を提供できること、多くの人との関りが生まれること、運営に関る人材が増えることなどのメリットが話されました。その後、事例発表があり、石井氏からは三島市子育て支援課とつながったことで助成金を獲得し、デイキャンプを実施したこと、家族単位のアクティビティーから日頃教室では見られない子ども達の活き活きとした表情やお母さん同士がコミュニケーションを図る姿を見られたこと、子どもの地域参加や不登校対策に発展したことなどの効果が聞かれました。鈴木氏からは自治会等と連携し、日本語教室の活動を防災講座と結びつけたことが外国人の防災訓練への参加につながったことや同じ地域で暮らす日本人と外国人の顔の見える関係づくりに役立ったというお話しがありました。また、保育園等との連携により、外国人保護者に子育てにかかる情報や知識を提供するだけでなく、関わる人全員がお互いの文化や習慣について理解を深める機会になったという報告がありました。半場氏からは、税理士や社会保険労務士を日本語学習の場に招いて保険や税金について教えてもらったことで、定住するフィリピン人たちが抱える生活課題がそのまま日本語学習の題材となり、日本語と日本の社会制度を一度に学ぶ機会になったという報告が聞かれました。事例発表を聞いた後は、グループごとに連携・協力を進めるためのコツやキーワードなどを出し合いながら意見交換をしました。参加者からは地域日本語教室の枠を超えた多文化共生コーディネートの役割が大事なのではないか、連携先は一見日本語教育と関係がないように見えるところも含むということがわかった、受け身ではなく自分から関っていくことが大切だと感じた、などの感想が聞かれました。最後に、外国人が困っていることは日本語教室の活動に全てつながっていること、連携により協力者が増えていくことで、社会的な問題も多くの人で考える機会になることなどが共有されました。

分科会B「子どもの日本語力を伸ばす手だて ~教材の工夫と活用~」

講師:NPO法人浜松日本語・日本文化研究会 代表 加藤庸子氏

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始めに、ことばが使えるようになるまでの段階の紹介がありました。指導者は「インプット」「アウトプット」「自動化」の各段階を意識すること、指導の際には、ことばの「かたち」「意味」「機能」を押さえ、子どもの頭の中で何が起きているのかを意識することが必要であるとのお話がありました。

次に、その子どもが抱える背景や日本語力のステージ、そして学校で必要となる日本語力などを把握する重要性、さらに発達年齢を考慮した留意点や支援準備に役立つ教材についてご紹介いただきました。実際に様々な教材を見せていただきながら、教え方や使い方の例を教えていただきました。

また、文字を習得する際には、日本語独特の音も併せて指導することが必要で、すごろくなどで拍の概念を身につけるなど、楽しみながらのステップアップが必要であることや、既成概念にとらわれず、心を柔軟にして教材の使い方を工夫することが重要であるとのお話がありました。授業内でも工夫できることがたくさんあり、体を動かしながらことばや文の意味を理解する「TPR」について、「さわります-机をさわります-肩をさわります」などのほか、「速く歩きます」「ゆっくり歩きます」など、副詞も含めた文へのステップアップなども含め、使える教材や、その活用法について詳しくお話を聞きました。

さらに、学校では教科担任との連携が必要不可欠であること、担任が多忙な中、いかに連携をとるかが課題であることなどのお話があり、学習者のモチベーション対策の例をお話しいただきました。事例として、『ある子どもは、定期テストは日本語力不足のため皆と同じテストを受けるのは難しかったけれど、その子ども用の国語(取り出し支援で学習した内容)のテストを作成して実施したところ、100点であった。このテストをきっかけに、その子どもは「自信」を持つことができ、勉強意欲が向上した』というエピソードが大変印象的でした。

最後にグループに分かれ、教材を使った活動を考えて発表し合い、盛り上がった分科会となりました。

分科会C「きっかけは『やさしい日本語』~対話と信頼~」

講師:神奈川県立国際言語文化アカデミア 教授 坂内泰子氏

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まず、「やさしい日本語」が阪神大震災をきっかけに生まれ、その後も災害のたびに実践されてきたこと、災害時以外でも行政の窓口対応や民間の日本語教室などで情報伝達や意思疎通の手段として活用されていることが述べられました。また、日本語教室は地域多文化共生の核であり、教室で先生と生徒が対等かつ継続的な関係が育まれることを解説されました。学習者にとって親戚でもない仕事仲間でもない人と毎週1回教室で会い本音でおしゃべりすることが大事だということ、言語はそれぞれのステージに応じた表現を獲得するものであり、鎌倉時代や明治維新においても日本語は使う「みんな」に合わせ変化していること、異文化が触れ合えば言葉が変わるのは当たり前であることを理解しました。

次に、普段の日本語を「やさしい日本語」にするコツを学びました。話すときは、文節ごとに小休止を入れ、はっきりゆっくり話します。反応をせかしてはいけません。耳慣れた言葉を選び、カタカナ語、擬音語・擬態語、専門用語、敬語、複合助詞は使わないようにします。情報を整理して小分けに順序を決めて伝えることが大事です。主語述語は、一文に一組とし、余情を残さない「言い切り」とします。

その後、3つのグループワークを行いました。1つ目は、高速道路の工事に伴う車線規制を外国人に説明します。2つ目は、運動会で小学校脇に路駐する外国人と指定駐車場を案内するPTAになりきり、やりとりを展開します。3つ目は、マイナンバーカードの受け取りに関する掲示物を作成します。前半の講義を理解し、それぞれ、様々な工夫を凝らしワークに取り組むことができました。

「やさしい日本語」で日本語のすそ野が広がることや「やさしい日本語」の普及により異文化間での意思疎通が促進すること、日本語教室が地域コミュニティでの自然な共生が実現される場として、「やさしい日本語」の活用が具体的に見えた分科会でした。