静岡県日本語ボランティアセミナー2020

2020年04月21日

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1月13日(月・祝)静岡県男女共同参画センター「あざれあ」(静岡市)で開催しました。年に一度、県内外から地域日本語教育に関わるボランティアや多文化共生に関心のある方が集まり、外国人が抱えることばの問題をはじめ、様々な文化背景を持つ人たちと共に暮らす上で重要な視点や姿勢等について考えました。今年のセミナーは、高校生や大学生など若い世代の参加者も多く、約260名が参加し、終日熱気にあふれたセミナーとなりました。

国内における日本語教育の動向

講師  北村 祐人 氏(文化庁国語課専門職)

日本で暮らす外国人は増加傾向にあり、国内における日本語学習者数は過去最高を迎え、2019年には「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の改定や「日本語教育推進法」の施行等、大きな変化がありました。日本語教育もさらなる推進が見込まれるため、北村氏から文化庁が実施する日本語教育事業や国としての今後の動向について解説いただきました。特に日本語教室がない地域における新たな日本語教室の開設事業や日本語教室に通えない外国人のためのITCを活用した日本語学習教材の開発、日本語教師や日本語学習支援者等の役割や資質・能力や今後の施策展開について具体的にお話いただきました。これまで地域で暮らす外国人の日本語教育は民間のボランティア活動に支えられてきましたが、今後は行政施策として日本語学習の機会が提供されていく動きがあること、指導者においても求められる資質や資格等が明確になっていくこと等、国レベルで大きな動きがあることを確認しました。

基調講演 「『外国人支援』を超え、人と人の境界線を溶かす」

講師  渡部 カンコロンゴ 清花 氏(難民と未来をつくるNPO法人WELgee代表)

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渡部さんは、世界には様々な環境下で生活を営んでいる人がいるということ、日本社会の中でも制度や仕組みから漏れたために様々な困難を抱えながら暮らしている人たちがいるということをご自身の体験を通して知り、さらにバングラデシュでの活動等を経て現在の難民と社会を繋げる活動に従事従事されているという自己紹介をされました。 渡部さんの講演から浮かび上がる難民申請者は、普段、新聞や報道で聞く「難民問題」とは別の局面があり、制度の問題や外国人への見方、偏見など、多くのことを考えさせられました。まず、日本にたどり着いた難民は、紛争や迫害の恐れから故郷を離れざるを得なかった人たちのことで、私たちと変わらない、当たり前の日常を送っていた人たちであるということを確認しました。中にはさまざまなスキルや資格を持ち、希望を抱いて日本に来た人たちがたくさんいる一方で、日本の難民認定の基準の厳しさ、難民申請者に待ち受ける就労や在留資格の問題、日本社会の中での偏見や孤立など、日本で生活を営むためには様々な問題があるということを知りました。 渡部さんは、難民の若者たちが企業や社会で持ち味を発揮し、働けるように関係性を繋ぐ活動に従事されていますが、多様性が問われる現代に、「社会の問題」とも思われがちな難民問題の解決の糸口は国や制度だけでなく、私たち一人ひとりに問われている意識や見方の転換であるということにも気づかされました。

分科会A 新たな外国人労働者受入れと多民族・多文化共生社会

講師  鳥井 一平 氏(特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク 代表理事)

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講義ではまず、2019年4月、改正入管法等が成立し、「特定技能1号・2号」が創設され、さらに入国管理局が出入国在留管理庁(入管庁)に格上げされるなど、外国人の受け入れにかかる動向は注目を浴び、日本社会は外国人労働者の存在なくして成り立たないという説明がありました。また、鳥井先生は「移民政策と異なる」として、場当たり的な受け入れであることが多くの問題を生んでいることに警鐘を鳴らしました。さらに、鳥井先生が代表を務める「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」では、外国人労働者に寄り添って支援活動をしており、賃金未払い、解雇、労災、相次ぐ労働問題など、外国人からの深刻な相談に真摯に向き合い、「技能実習制度」の問題を多く扱っていることが紹介されました。 近年では、技能実習生に関係する案件が多く、鳥井先生からは、暴力事件や300円の時給、労災隠し、セクハラ、妊娠による強制送還、健康問題、パワハラ、長時間労働など、驚くべき事例が多数紹介されました。実習生をモノ扱いするようなこの制度こそが、経営者が変貌してしまう根源であるとのことでした。 講義後半は、鳥井先生の「今後、オリンピック、パラリンピック開催国として、日本の使命は大きい。人材を、使い捨てにしない、させないこと、社会の担い手として、受け入れなければならない」という解説の後、参加者は「移民社会 多民族・多文化共生社会のいいところ」を3つ、「私たちが今できること」を3つ、グループになって意見を出し合いました。 最後に、鳥井先生から、「違いを尊重」「ひとりじゃない」「できることからはじめよう」の3つの合言葉を教えていただき、外国人労働者の権利を守り、多文化共生社会を築くことは、日本人、外国人ではなく、豊かな社会を築くチャンスであると理解しました。

分科会B 静岡県で暮らす外国ルーツの子どもへの日本語支援

講師  高畑 幸 氏(静岡県立大学教授)

発表者

  • 石井千恵子氏(のびっこクラブみしま代表)
  • 谷澤勉氏(多文化共生を考える焼津市民の会「いちご」代表)
  • 西川一美氏(セントロ デ エンシーノ ニッポ ブラジレイロ 日本語教師)

まず、高畑教授より外国人増加に至る社会的背景とその理由、静岡県における外国人住民の状況と特徴、子どもの状況について解説がありました。静岡県には約93,000人の外国人が暮らしていますが、年々家族滞在の傾向が高まり、日本語指導を必要とする子どもの数も3,000人を超え、全国で4番目です。また、県内には9校の南米系外国人学校があり、1,000人を超える子どもたちが在籍しています。高畑教授は、日本の社会制度の血統主義による国籍取得、教育制度の年齢主義、義務教育の対象とされる子どもの定義等は、グローバル化している現代において制度から漏れてしまう子どもたちを生み出してしまうことを解説しました。そして、国籍条項により外国籍の子どもたちが将来できる仕事には制限がある等の問題を提示しました。 次に、地域で外国につながる子どもたちの支援をしている3名からそれぞれの立場で課題となっていることをお話いただきました。三島市で活動する石井さんからは、近年増加している学齢超過の子どもを中心に、高校進学の壁や精神的なサポートの重要性についてお話いただきました。焼津市で活動する谷澤さんからは、中高生を含むボランティアが多数参加し、宿題を手伝ったり、レクリエーションを通して子どもたちと交流を図ったりする活動を通して、外国につながる子どもたちと日本語話者との自然な触れ合いや日本語でのやりとりが行われる様子が紹介されました。菊川市にあるブラジル人学校の日本語教師である西川さんからは、日本語レベルがバラバラの生徒たちがどうやったら日本の文化に関心をもち、日本語学習に対する意欲を高められるか、その難しさや優良事例について語られました。 最後は、グループごとに参加者で意見交換をしました。外国の子どもが地域で日本語話者と多くの接点をもつような取り組みの広がり、日本語だけでなく、母語・母文化支援の必要性、保護者支援の重要性等について多くの意見が出されました。

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分科会C 対話活動を通して楽しく日本語支援をしよう

講師  武田 由美 氏(公益社団法人 国際日本語普及協会所属日本語教師)

分科会Cでは「対話活動を通して楽しく日本語支援をしよう」をテーマに、外国人への日本語の教え方について解説していただきました。講師の武田先生は、留学生や外交官、外国人会社員に日本語を教えている現役の日本語教師です。学習者が会社員であれば、日本語だけではなく日本のビジネスマナーと併せて教える必要があり、子どもであれば、無声のアニメや映画を見ながら会話を想像し学習する方法が有効、というように、それぞれの立場で必要な教え方が異なるとのお話がありました。  続いて、身近にあるものを教材とする方法の紹介がありました。先生は、日本に住み日本語教室に通っている学習者に、生活の中で理解できなかった看板などを写真に撮ってきてもらい、授業の教材にしているとのことです。日本人には当然のように理解できる「立入禁止」の看板も外国人にとっては「立って入れない?座ったら大丈夫?」と聞いてきたり、「化粧室」と書いてあってもそれがトイレと結びつかなかったり、具体例を挙げながら、身近なものを教材とすることで日本語と同時にそれぞれの学習者に応じた日本の生活もサポートできるとお話いただきました。 後半のワークショップでは、受講者同士グループとなって、スーパーマーケットのチラシや新聞の折り込み広告などを利用して「買い物に行く」という場面ですぐに使える教材作りを行いました。チラシを用い、外出~買い物~食事の流れをすごろくにして、ゲーム形式で学べる教材を作成したグループもあり、それぞれ工夫を凝らして取り組んでいました。 その他にも武田先生が実際に日本語を教えてこられた経験からの多くの実例、おすすめできる市販のテキスト、インターネットからダウンロードできる教材の紹介や利用のコツに至るまで幅広い内容を解説していただき、受講された皆さんは熱心に耳を傾けていました。

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