当協会は平成25年より医療通訳事業に取り組んできました。その中で医療通訳者養成講座を開催し、修了生を医療通訳者として登録後、病院からの要望に応じ、通訳紹介を行うことで、医療通訳の体制整備に努めています。
今年度は、近年問い合わせが増えているインドネシア語、シンハラ語、ネパール語、ミャンマー語の4言語を対象に、産科診療をテーマとして、東部健康福祉センターと共催で下記の通り講座を開催しました。
日時:8月1日(土)10:00~12:00 方法:オンライン(Zoom)
参加者:17名(インドネシア語6名、シンハラ語3名、ネパール語6名、ミャンマー語2名)
講義:「医療通訳に知ってほしい産科の知識」
講師: 沼津市立病院 助産師 髙野 由香 氏
外国人妊婦の出産に多く立ち会う助産師の方から、妊娠・出産の基礎知識と医療通訳の役割について学びました。医療通訳は単なる翻訳ではなく、医療者の質問の意図を理解して正確に伝え、母子の安全を支える重要な役割を担います。妊娠中は出血や強い腹痛、胎動の減少などの危険兆候に注意し、異常の早期発見のため定期的に妊婦健診を受けることが大切です。また、分娩の流れや緊急避妊薬と中絶薬の違い、海外から中絶薬を取り寄せて服用する危険性についてもお話しいただきました。外国人妊産婦への支援では、やさしい日本語の使用と正確な通訳を心がけ、宗教や食事、授乳などの文化的背景にも配慮しながら、本人の希望に沿ったケアを行うことが重要だと学びました。
講義:「母子保健に関する指導について」
講師: 清水町役場 健幸づくり課 保健師 梶浦 寛美氏
人口の約5%が外国籍という清水町の保健師の方から、外国人住民を含む妊婦への支援制度や、妊娠から出産後までに必要な手続きについてお話しいただきました。妊娠が疑われる場合は検査薬を使用し、陽性なら産婦人科を受診します。住所地での妊娠届出時面談では、母子健康手帳が交付され、希望により外国語版も受けとることができます。妊婦健診は妊娠週数に応じて受診し、各種給付金や受診券も利用できます。その他、妊娠中の健康管理や出産準備、出産後の出生届や助成・手当の申請、必要な在留手続きについても説明いただきました。出産後には赤ちゃん訪問、乳幼児健診、予防接種などの支援があり、海外での出産やワクチン接種歴などの個別相談にも対応していると教えていただきました。
日時:8月29日(土)10:00~16:00 会場:静岡県男女共同参画センターあざれあ第1研修室 他
受講者:18名(インドネシア語10名、シンハラ語2名、ミャンマー語3名、ネパール語3名)
保健師:13名
講義:「医療現場で通訳すること ~医療通訳の倫理・心得~」
講師:静岡県立大学 看護学部看護学科 濵井 妙子 氏
医療通訳者は、患者と医療者の円滑なコミュニケーションを支援し、信頼関係を築く重要な役割を担います。そのためには正確な通訳を基本とし、省略や言い足しを避け、逐次通訳やメモを活用して誤訳を防ぐことが大切です。文化・宗教・医療制度の違いを理解した上で、双方の橋渡しを行うことが重要だと教えていただきました。また、患者情報については守秘義務を果たし、情報提供が必要な場合には患者の同意を得ることが原則です。通訳ミスは診断や治療の遅れ、患者の不安につながるため、常に専門性を高め、医療知識の習得と倫理意識の向上に努める必要があることを学びました。
講義:「通訳者が学ぶこと ~通訳に必要な技術~」
講師:群馬医療通訳者有志の会 代表 原 美雪 氏
地域で活動する医療通訳者に求められる役割や課題について学びました。外国人住民の中には、医療者の説明を正しく理解できずに不安を感じたり、必要な治療を受けられなくなったりする事例があり、診療におけるコミュニケーションの重要性を教えていただきました。通訳者には、患者が日本での生活で抱える困難を理解しようとする姿勢、知識や語学力だけでなく、継続して学ぶ力、体力、精神力が求められ、医療者との連携や、患者からの相談を一人で抱え込まないことも大切です。音声をそのまま声に出して再現する「シャドーイング」やノートテイキングなどの練習を重ね、電話の医療通訳者に登録するなど、積極的に実践力を高めていってほしいとお話がありました。
「日本と自国の出産・育児に関する意見交換会」
進行:東部健康福祉センター 保健師 渋谷 美樹 氏
国別のグループに分かれ、保健師の方にも加わっていただき、日本と各国の出産・子育て支援の違いについて話し合いました。インドネシアやスリランカでは帝王切開が多く、ネパールでは祖父母など同居家族から子育ての協力を受けるのが一般的だそうです。ミャンマーでも家族や親戚、祖父母が子育てを手伝う家庭が多いため、日本の子育ては大変に感じるという意見がありました。一方、医療保険や産休・育休制度、健診や予防接種などは国ごとに大きな違いがありました。妊娠中の食事や出産前後の生活も異なり、それぞれの国の社会や文化が出産・子育てに大きく関係していることがわかりました。
「医療現場での通訳を想定した言語別ロールプレイ」 産婦人科診療・母子手帳交付における医療通訳
講師:原 美雪 氏
言語別に分かれ、妊婦健診・予期しない妊娠による診察場面、保健センターでの母子手帳交付の場面の3つのシナリオに沿って、通訳者としての演習を実施しました。医師役の保健師や講師からアドバイスや通訳のコツを教えていただきながら練習を重ねました。



