令和7年度 駿東田方圏域妊産婦及び母子支援ネットワーク会議

2025年12月01日

第1回 「東部地域の外国人妊産婦支援の現状と医療通訳の活用について」

静岡県では、外国人の定住化及び外国人観光客の増加に伴い、外国人が病院を受診する機会が増えています。当協会は平成25年より医療通訳事業に取り組んできました。その中で医療通訳者養成講座を開催し、修了生を医療通訳者として登録後、病院からの要望に応じ、通訳紹介を行うことで、医療通訳の体制整備に努めています。
円滑な外国人診療のためには、まず医療従事者の方に医療通訳の必要性や利用方法を理解いただく必要があります。今回は、その一環である医療従事者を対象としたオンラインセミナーの様子をご紹介します。今年度は、外国人妊産婦への支援に苦慮する医療機関や自治体が増加していることを受け、東部健康福祉センターと共催で、駿東田方地区の妊産婦に関わる医療関係者を対象に、具体的な支援について考えるセミナーを開催しました。医師や看護師、保健師、助産師など約40名の方が参加し、現状と事例の共有や医療通訳のロールプレイを通して、活発な意見交換が行われました。

日時:11月5日(水)17:00~19:00 方法:オンライン(Zoom) 

参加者:38名

  1. 講義:「静岡の外国人医療の現状と課題について」
    講師:菊川市立総合病院 城向 賢 医師
    内容:最初に静岡県に住む外国人の人口推移や比率をご紹介いただいた後、外国語の母子手帳の交付数について説明がありました。県全体ではブラジル人住民が最多ですが、東部ではベトナム語の母子手帳交付が一番多く、言語の壁や通訳を依頼する上での課題、文化・制度の違いによる対応の難しさが、支援の障壁になっているとご説明いただきました。次に、現場で多用される通訳の種類について解説していただきました。アプリ翻訳やポケトーク等の通訳ツールや知人・家族によるコミュニティ通訳は、安価で利用しやすい反面、微妙なニュアンスまでは伝えきれず、正確性や安全性の面で課題が残ります。外国の方が日本で医療にアクセスする際、言語・文化・制度という3つの壁に直面します。これらの壁を乗り越える鍵が通訳であり、ぜひ医療通訳が言語と文化の架け橋になることを今日の講座で体験してほしい、と呼びかけていただき、講義は終了しました。
  2. 「外国人妊産婦との面談を想定した医療通訳ロールプレイ」
    ファシリテーター みんなの外国人ネットワーク(MINNA)/フリーランス ライター・助産師 神田 未和 氏
    外国人妊産婦役/医療通訳者役
    ベトナム語:ディン ティ ホン ニュン 氏/グエン ヴァン ケン 氏
    中国語:金 英玉 氏/宇野 冬美 氏
    スペイン語:形岡 洋光 氏/南 マルシア 氏
    ビサヤ語:TEA RANA 氏/ツダ レヤ キノネス 氏
    内容:外国人妊産婦との面談を想定したロールプレイを行いました。母子健康手帳の交付、妊婦健診、産後訪問という3つの場面を設定し、参加者は医療通訳あり/なしの2パターンの面談を体験しました。県内在住の外国人の皆さんがそれぞれ外国人妊産婦・医療通訳者に扮し、各国の文化背景に触れながら、対話を進めていきます。1回目は、日本語のやりとりに支援が必要な妊産婦に対し、身振り手振りも交えつつ、どうにかして生活状況や心身の状態を把握しようと奮闘する姿が見られました。2回目は医療通訳者が入って同様の聞き取りが行われ、体調や子育て支援者の有無など、より深い部分までコミュニケーションが進みました。面談を体験した医療関係者からは、「通訳が入ることで妊産婦の方の気持ちがよくわかり、どんなサポートが求められるかまで話を発展させられた」、「『おいくつですか?』など、普段当たり前に使う敬語の難しさに気づかされた」などの感想がありました。
  3. 「外国人妊産婦の事例提供・意見交換」
    発表者:沼津市立病院 村林 督夫 医師
    内容:最後に、外国人妊産婦の事例の共有がありました。一度陣痛があって入院したものの翌日退院し、その2日後に再度入院、別の病院に緊急搬送されたケースです。若年層の外国人住民の増加とともに、静岡県内で妊娠・出産する方も増えています。それに伴い、病院のNICUでも外国人への対応が増えているとご説明いただきました。事例共有後の意見交換では、コミュニケーションの大切さや、通訳を依頼する際の課題、産院と行政の連携、同様の事例への対策について議論を深め、医療通訳の重要性を再確認する機会となりました。

日本での妊娠出産に際して、母子手帳交付や産後訪問など他の国にはない制度もあり、戸惑う方も少なくないようです。今回参加した医療関係者の皆さんからは、現在現場で使用している翻訳機では伝えきれない部分があるとわかった、また、行政の制度やケアの内容を説明する際、母語で伝えることが支援者の安心と信頼につながるといった感想があり、医療通訳の必要性を改めて実感した方も多かったのではないかと思われます。今後も現場の声に耳を傾け、医療関係者の方とも連携しながら、医療通訳の周知と体制整備を目指します。