文部科学省 令和7年度 外国人材の受入れ・共生のための地域日本語教育推進事業「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」活用
静岡県より受託の「静岡県地域日本語教育体制構築事業」の一環として開催
2026年2月11日(水・祝)、静岡県男女共同参画センター「あざれあ」(静岡市)にて開催しました。県内各地より日本語教育に携わっている方や多文化共生に関心のある多くの皆様が集まり、日本語教育の現状や課題について考え、アイデアや意見を交換する良い機会となりました。
講師:田中 宝紀(いき) 氏(NPO法人青少年自立援助センター 定住外国人支援事業部責任者)
講師の田中さんは、ご自身が16歳の時にフィリピンの現地高校へ飛び込み、地域の方の温かさに触れた体験を糧に、子どもの支援活動を始められました。NPO法人青少年自立支援センターを立ち上げ、海外にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業「YSCグローバル・スクール」を運営し、2020年からは裾野を広げるため、中間支援にも積極的に取り組まれています。
YSCでは、「誰ひとりとり残さない」、「来た人を断らない」を信念に、学びとつながりの場を提供しており、6歳以上から高校進学を目指す若者を対象とした教育支援や、15歳以上を対象とした日本社会での就労支援等、学年別に14のコースを運営しています。フィリピン、中国、ネパール、ギニア、イエメンなどのルーツを持つ年間約400名(2024年度)の若者が利用しているそうです。利用料金が発生するため、経済的に困難な家庭やひとり親家庭などには負担が大きく、奨学金等による減免・無償化などにも取り組んでいるという説明がありました。
また、日本の公立学校に在籍する外国人児童生徒数及び日本語指導が必要な児童生徒は年々増加しており、リーマンショックやコロナ禍においても支援を必要とする子どもの減少は見られなかったという解説がありました。ただし、調査の基準は明確ではなく、実際にはもっと多くの子どもたちが日本語指導を必要としていることが考えられます。そのような中、親子間のコミュニケーションにAIを活用する家族や、日本語も母語も伸びきらないダブルリミテッド、他者との対話がしづらい思春期でのアイデンティティの確立等、若者の抱える多くの課題が挙げられました。一方で、ことば以上に人間関係を厚くし、安心できる環境づくりが大事であることや、あやとりや折り紙、歴史等、子どもの興味・関心が成長を促すことにつながるなど、活動のヒントが示されました。
田中さんが活動を始めた頃の外国ルーツ生徒の高校進学率は50~60%でしたが、現在は90%を超えているそうです。一方で、高校中退率は日本の学生と比較して7倍となっている現状もあり、学校というレールから落ちてしまうと、孤立してしまう状況を危惧しているというお話がありました。教育のレールからとりこぼさないことが何よりも大切であること、また、在留資格についても専門家と連携し、奨学金や高校無償化の対象となるか等を調べる準備も必要ではないかと述べられました。
高校の中間支援は前進しており、国の認識も高まっています。YSCでは今までの経験を活かし、所属先がない、日本語を十分に学べておらず、事態も明確に把握されていない「社会的所属のない海外ルーツの若者」を注視し、支援を進めているそうです。
講演後の質疑応答では、高校と夜間中学校のどちらを勧めるのが良いのか、やる気のない子どもたちへの支援はどうすれば良いのか等質問が挙がりました。田中さんからは、若者一人ひとりに寄り添うこと、また、子どもたちは日本に来たくてきたわけではない、納得しないとやる気は出ないが、居場所があることだけでも素晴らしいこと、子どもたち自身が気持ちを切り替えるタイミングがいつか来るのではないか、というアドバイスがありました。
アンケートからも、「愛あふれるお話を聞けて良かった。」「現実にリアルタイムで課題と向きあっていらっしゃる方のお話しで、イメージがくっきりとしました。」など、外国ルーツの若者支援の先頭を走る活動のお話が聴衆者の心に深く残ったことが伺えました。


講師:鈴木ゆみ氏(静岡県地域日本語教育コーディネーター)
発表者:袋井市「はじめての日本語ひろば」関係者、富士宮市「はじめての日本語」教室関係者
分科会Aでは、静岡県が推進する「対話交流型地域日本語教室」の理解を深めました。講師から静岡県の地域日本語教育事業の概要が説明された後、地域日本語教室の役割について話し合いました。多くのグループから、「日本語学習の場」の他にも「生活ルール等の情報提供の場」「日本人と外国人の交流の場」、「居場所」との考えが共有されました。また、教室の主役である学習者以外にも、事務局を務める市町担当者や学習支援者、コーディネーターや指導者、母語支援者など様々な役割の人たちが関わり、意見を交わし、目的を共有しながら教室が運営されていることを学びました。
その後、袋井市と富士宮市の対話交流型教室の運営チームの皆さんより活動の様子を発表していただきました。袋井市の発表では、日本語教育は外国人が地域で安全に働き地域参画するために必要な取組であるという考えのもと、外国人と日本人が地域でつながる場を創出するために体制を整備し、丁寧に準備をして教室開催に挑んでいることがわかりました。また、富士宮市の発表からは、「つなごう笑顔 みんなの『わくわく』」をコンセプトに掲げ、学習者とサポーター、また運営陣もフラットな関係性を築き、教室活動を楽しんでいることを感じ取ることができました。
講座の後半は、スリランカ、ネパール、ベトナム、インドネシア出身の皆さんに加わっていただき、グループで対話交流の体験を行いました。最初にアイスブレイクとしてグループ全員の共通点を探す活動を行い、犬好き、病院が嫌い、眼鏡をかけている等を見つけることができました。その後、「行きたいところ、したいこと」をテーマにペアになって話をしました。最初は緊張していた参加者も、地図や写真を見せながら行ってみたいところ等を相手に伝え、対話交流を楽しみました。
参加者からは、「準備と振り返りに時間をかけているのがすごいです。草の根の活動も大事ですが、行政がしっかり関わることはとても力強いです。」「2市の実践の様子を体感し、実際に外国人出身者と交流が体験でき、改めて対話する意味を考えるきっかけになった。」等の感想がありました。


発表者:石井 千恵子 氏(のびっこクラブみしま 代表) 三島市
肥田 進 氏(しずおか自主夜間教室 代表) 静岡市
加藤 庸子 氏(NPO浜松日本語・日本文化研究会 代表) 浜松市
まず、長年地域で子ども支援をしている団体代表者3名の方が各団体の活動内容について発表されました。「のびっこクラブみしま」では日本語支援や教科支援を中心に、進学サポート、交流イベント、食料支援等、一人ひとりの成長に寄り添った支援をしています。石井さんからは「あれもこれも自分たちで解決しようと抱え込まない、外部団体と情報共有して連携することが大事」というメッセージが発せられました。「しずおか自主夜間教室」では日本語習得に不自由しているだけでなく、心に傷のある子どもも多いことから、肥田さんからは学びだけでなく、居場所であることや相談できる場、伴走サポートの場であることを大事にしていることが語られました。「にほんごNPO」では浜松市教育委員会からの委託を受けてプレスクールや日本語学習支援の事業を展開する一方、自主事業として実施している幼稚園支援やボランティアメンバーによる日本語教室「ぐんぐん和田」「ぐんぐん浜北」の様子が紹介されました。加藤さんからは日本語教室の開設当初はニーズがあっても子どもたちが集まらずボランティアが余ってしまう日があったが、門戸を閉じることなく継続することで進学を果たした子どもも増えているという発表がありました。
後半は「あったらいいな、こんな活動。考えてみよう、はじめの一歩」というテーマでグループワークが行われました。参加者は「未就学児」「小学校低学年」「小学校高学年」「中学生」「高校生」「年齢不問」に分かれ、「地域にあったら良いな」と思うアイデアを話し合い、実現するためにどのような「はじめの一歩」が考えられるか、模造紙にまとめました。親子で遊びながら日本語を学ぶ活動や母語と日本語で自分の思いを伝える活動、畑作業を通した学び活動、お互いに料理やことばを教え合う活動、相談や交流を通した誰もが安心できる居場所づくり等、学校ではできない、地域ならではのアイデアが発表されました。そして、活動を実現させるためには、町内会や地域サークル、地元企業やレストラン、児童館、福祉センター等と情報共有をし、つながることが大事であることを確認しました。
参加者からは、「意見の出し合いが刺激になった」、「違う立場で子ども支援に関わる方の話が聞けて勉強になった」、「実践的なワークでアイデアを実現させたいと思った」等の感想が聞かれました。


講師:我妻 潤子 氏(株式会社テイクオーバル 知的財産アナリスト・東京藝術大学非常勤講師)
竹生 秀之 氏(株式会社テイクオーバル)
この分科会には、地域の日本語教室や学校等で日本語教育に携わっている方が多く参加され、著作物を使用する際の注意点について考えました。まず、著作権に対してどんなイメージを持っているのか、それぞれ付箋に書き出して共有しました。ここでは「ルールが複雑」、「製作者を守るもの」、「わかるようでわからない」等の意見が挙げられました。講義前半では、著作権のシステムについて、著作物と著作者の定義とともにご説明いただきました。著作者は自身が創作した著作物の利用方法を自由に決めることができ、利用者が利用する際には原則として許諾が必要である一方、著作者の権利が制限される場合もあります。著作権法とは権利者と利用者のバランスを取る存在であり、著作物を「使う」ことに意識が向きがちですが、自分も著作者になり得るという認識を持った上で権利について考えてほしいとお話がありました。後半では、著作権とはどんな権利なのか、何に気をつけるべきなのか、ワークショップを通して理解を深めました。その中で、「正当な範囲内であること」や「出所の明示」といった著作物を引用する際の条件や、教育現場における著作物の使用についても教えていただきました。最後に、問題集の複製や地図の引用などに関する質問にお答えいただいた後、「著作権は特別なものではない。ぜひ今日の学びを日々の教材作成や活用の場で生かしてほしい」というメッセージをいただき、分科会は終了しました。
参加者からは「『自分は大丈夫か?』と考えようと思った」、「曖昧にしていたことに気をつけていきたい」等の感想が聞かれました。

